相続についてのお尋ねが届いたら
相続の手続きをしている最中、もしくは終わってきた頃に税務署から「相続についてのお尋ね」が送付されることがあります。何か手続き漏れがあるのではないかと不安になる方もいらっしゃるでしょうが、おたずねの趣旨を理解して冷静に対処しておくのが良いです。
相続税申告義務の概要
書類の内容に入る前に、相続税の申告義務について簡単にまとめます。まず下記のAを計算します。
A = 遺産の総額 - 相続債務 - 基礎控除
このAに関して、A≦0であればまず申告不要、A>0ならば申告が必要な可能性ありになります。相続債務は、相続した借金以外に葬儀費用なども含みます。基礎控除は、3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算します。
例えば
遺産総額:5,000万円
相続債務:500万円
法定相続人の数:妻・子2人
であれば、A=5,000万円―500万円-4,200万円=300万円>0のため、申告が必要な可能性があります。法定相続人がもう1人いれば、基礎控除が4,800万円のため申告不要と判定できます。
お尋ねの趣旨
「相続についてのお尋ね」は、要は上記の判定結果を出してくださいということです。ただ相続人が相続財産や債務の計算にあまり詳しく無ければ、税理士に作成をお願いすることになります。
相続税の申告期限は、相続開始を知った日から10ヵ月後です。お尋ねは、期限後・期限前どちらのタイミングにおいても、税務署から送られてくることがあります。
|申告期限後の場合
申告漏れの可能性が高い方に送られてきます。不動産業者・金融機関など税務署が調査できるため、財産の額をつかんでいる可能性があるからです。
また被相続人が過去に(退職所得を除く)各種所得合計が2,000万円を超え、財産3億円以上を所有していたような場合は、財産債務調書を出している可能性があり、これにより税務署が相続財産・債務の額を推測していることも考えられます。
|申告期限前の場合
申告義務がありそうな方への催促の意味あいがあります。これも上記のように、事前に情報をつかんでいることが考えられます。
お尋ねを出すべきか?
|申告期限後の場合
申告期限後の場合は、申告が必要か不要かに関係なく出すべきと言えます。お尋ねに提出義務はありませんが、未提出のままでいると税務調査の可能性が高まります。
A≦0で申告義務がなければお尋ねを出して終わりですが、A>0の場合はお尋ねを出すだけでなく、その後相続税申告書の期限後申告を行うことになるでしょう。
後述するように、相続財産の額を概算から正確な数値にすることで、A≦0に変わる可能性もあります。この場合申告が義務付けられている特例の利用を除けば申告義務は無くなりますが、お尋ねが来た以上は申告書を出しておいたほうが税務調査の可能性が低くなります。
|申告期限前の場合
申告期限前の場合は、申告義務があるかどうかによります。
A>0の場合は、まだ期限前ですからお尋ねは出さなくてもよく、期限までに相続税申告書を出せば大きな問題は無いです。
相続税申告書を作成している、もしくは税理士に進めてもらっている段階であればよいのですが、全然作成に入っていない場合は早急に進める必要があります。どうしても期限後申告になる場合は、期限までにお尋ねだけでも出しておくことも考えられます。
A≦0の場合は、お尋ねを出しましょう。こちらについても提出は任意ですが、申告義務が無ければ無いことを申し出た1つの証にもなります。この場合も、未提出は税務調査の原因になります。
記載事項の概要
|相続人・財産債務額・基礎控除の記載は申告書とほぼ同じ
相続についてのお尋ね
https://www.nta.go.jp/tokyo/topics/souzokuzei/pdf/29_03.pdf
ですが、
・3の相続人欄
・4~8の各相続財産額
・9の相続時精算課税適用贈与財産欄
・10の贈与財産欄
・11の相続債務額
これらはいずれも、相続税申告書の記載事項でもあります。ただし、
4 不動産
5 現金預金以外の金融資産
6 現金預金
7 保険金・死亡退職金
8 4~7以外の財産
はシンプルな形で記載事項が異なっており、比較的わかりやすいものとなっています。相続税申告書では、種類別に細かく計算・記載した上で、第11表にまとめて記載する項目です。
12欄は相続税申告義務の判定欄ですが、ここで3欄をもとに基礎控除額を算定し、相続財産―相続債務と大小を比較します。
|概算で申告書の途中まで算定するようなもの
お尋ねの作成は、申告書の大枠を途中まで作っているようなものです。ただし、例えば4欄の不動産評価額はお尋ねでは路線価×面積(もしくは固定資産税額×倍率)ですが、実際の評価はもっと複雑です。
5の金融資産でも、上場株式の評価額は概算よりもう少し下がるよう、有利な評価方式になっており、そのためには詳細な計算が必要です。
概算は、実際の申告における評価額より多めに見積もることが多いです。そのため申告書を作成してみると、相続税が発生しないこともあります。例えば上場株式の評価額ですが、A社株式を10,000株持っていたとして、
死亡した日(平成29年10月10日)の終値:3,000円
平成29年10月の終値平均:2,800円
平成29年9月の終値平均:2,500円
平成29年8月の終値平均:2,200円
であった場合、概算では3,000円×10,000株=3,000万円と算出するでしょうが、実際の相続税評価額はこの中から最も安い2,200円を使うことができ、2,200万円となります。800万円評価額が下がることで実際にはA≦0になることもありえます。
提出義務ありだからと言って相続税が発生するとは限らない
概算を正確な評価額にするだけでなく、特例を用いることによって相続税が0円になることがあります。この場合、申告が義務づけられているものがあるので注意が必要です。
|適用にあたって申告が必要な特例がある
4欄の不動産評価額に関しては、住宅用土地であれば330㎡の部分まで8割評価額が下がる小規模宅地等の特例もあります。また、少なくとも1億6,000万円が遺産総額から差し引ける配偶者の税額軽減もあります。
配偶者の税額軽減や、小規模宅地等の特例を利用する場合は、その結果として相続税が発生しない場合であっても、相続税の申告が必要になります。
例えば相続した土地の面積が300㎡で、原則的な相続税評価額が4,000万円であった場合、小規模宅地等の特例を活用できれば800万円にまで下がります。これだけ下がるとお尋ねの概算では相続税の発生が予想されていても、実際に申告してみれば0円になることもありえます。
申告期限が過ぎた場合でも必ずしも活用できないわけではないので、期限後申告になるとしても申告を行いましょう。
|お尋ねではわからない税額控除も
上記以外で、相続税の未成年者控除・障害者控除といった控除を受けることができ、そのことにより該当する相続人の税額を引き下げることができますが、お尋ねではこれらの控除までは計算しません。
未成年者控除は20歳未満の相続人に対する税額控除であり、税控除額は(20歳―相続開始時の年齢)×10万円となります。
障害者控除は、障害者である85歳未満の相続人に対する税額控除であり、税控除額は(85歳―相続開始時の年齢)×10万円となります。なお特別障害者に該当すれば10万円→20万円となります。
これらの控除は、相続税額を(相続割合に応じて)各相続人に按分してから活用できる控除で、お尋ねではこの段階の計算までは行いません。活用した結果として相続税額0円となることはありえます。
相続対策として被相続人がまとめておくのがよい
全ての相続財産と相続債務を把握していないと、相続税の申告書どころかお尋ねも満足に書けないことになります。相続対策としては遺言を残しておくのが望ましいのですが、そこまで行かなくても相続財産・相続債務を相続人のためにまとめておくのがよいと考えられます。
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