子供が結婚、家の面倒見てやるか・・親から子への住宅取得等資金贈与のポイント5つ
遅かれ早かれ、遺産は子供のものになる?
ついこの間小学校に入ったと思った息子も、いつの間にか立派に成長し、先日結婚式を挙げた。奥さんと2人、幸せに暮らしており、来年には新しい家族も誕生するという・・・もはや何も言うことはない。
いや、あとは家か。聞けば、息子夫婦が暮らす賃貸マンションは、1LDKで10万円近くするという。子供ができて3人になったら手狭だろうし、少し郊外に広い家を買ったほうがいいのではないか。息子にそう言うと、
息子 「いや、正直マイホームは欲しいよ。でも結婚式も挙げたばかりで貯金も減ったし、頭金としてそこまで多くの金額は用意できないし・・金利負担ばかり多くなってしまうような気がして・・・」
父 「バカ、なぜ相談しないんだ!ワシや母さんが死んだら、いずれ遺産はお前のものになるんだ。遅かれ早かれ、だろう。頭金になるくらいの金額ならワシが出してやる!」
息子 「ええっ、本当かい親父!嫁さんも喜ぶよ・・・」
ポイント① 親から子への援助には、贈与税が課税される
どこにでもありそうな、親子の会話ですね。子供の幸せのために、何かしてやりたいという親の想い、「遺産は遅かれ早かれ、子供のもの」という若干ドライですが一理ある考え。いずれも理解はできます。
ただし、「税務的」にはこの考え方は認められるのでしょうか?
結論から言うと・・・認められません。いや、正しくは、「どうぞご自由に。ただしその贈与に対して、税金は掛けますけどね」というのがこの国の制度です。
さらに正確には、1年当たり110万円以内の贈与に対しては、贈与税は課税されませんので、仮に500万円を住宅取得資金として親から子に渡した場合には、(500万円-110万円)×20%-25万円(控除額)という算式により、53万円もの贈与税が課税されてしまいます。つまり、500万円受け取っても、53万円納税しなければならないので、差し引き447万円しか受けとることができないのです。
ポイント② 贈与税を課税されずに親から子へ住宅取得資金を援助するには、一定の要件を満たす必要がある
447万円も受け取れれば充分マイホームの頭金にはなるものの、53万円も納税しなければならないのでは、あまりにも損です。
何とか贈与税を課税されずに、親から子へ援助する方法は無いものでしょうか?実は・・・あるんです!一定の要件のもと、以下の方法が考えられます。
方法1.複数年に渡り非課税の範囲内で贈与を行う(暦年贈与)
方法2.住宅取得等資金の非課税制度を利用する場合
方法3.相続時精算課税制度を利用する場合
以下、それぞれの方法について解説していきます。
ポイント③ 暦年贈与を利用する場合の注意点
先述の通り、「1年あたり110万円までの贈与」に対しては、贈与税は課税されません。この1年当たり110万円の非課税枠を利用して、3年、5年、7年などに渡り、100万円前後の金額を渡していけば、贈与税を課税されることなく、親から子へ財産を移転することができます。
ただし、数年単位の時間を要するため、思い立ってすぐに頭金相当の金額を渡すことはできません。また最大の注意点として、「当初から多額の贈与を行うつもりであった」と捉えられないために、たとえ親子間であっても、贈与契約の結び方などに注意する必要があります。
つまり、「毎年100万円を5年間贈与する」といった契約内容では、「はじめから500万円渡すつもりだったんでしょう」と捉えられるため、万が一税務調査にて指摘された場合には、追徴課税のリスクが非常に高いと言えます。
多少面倒であっても、「100万円を贈与する」という契約を、ある年には6月に、ある年には12月に結ぶなど、あくまで毎年贈与をするか否かは、その年ごとの状況次第であった、という説明ができるようにしておくのが良いでしょう。実際、そういうつもりだったのですから・・・。
ポイント④ 住宅取得等資金の非課税制度 制度の概要と留意点
上記の「1年あたり110万円までの贈与は非課税」という暦年贈与の枠とは別に、一定の要件を満たした場合には、その住宅の種類や贈与をした年に応じて、追加の非課税枠が適用されます。
【適用要件】
1.直系尊属(父母、祖父母等)からの贈与であること
義理のお義父さん、お義母さんからの贈与ではダメです。
2.贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上であること
小さい子供のうちから贈与だけ行い、相続対策・・なんていうのはダメです。
3.贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下であること。
そもそも、贈与受けなくても家買えるくらいの収入があるでしょう、ということですね。
4.過去の贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けたことがないこと。
この制度を何回も使うことはできません。
5.親族から購入する住宅ではないこと。また、親族との契約により新築等するものでないこと。
当たり前ですよね。あと、親が不動産業をやっていて、契約して建てるとかもダメです。
6.贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること。
契約だけではダメで、贈与を受けた年の翌年3月15日までに「物件の引渡し」を受ける必要があります。
7.贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること
これはあまり問題になることはありませんが、贈与者である親等が、贈与時に日本国内に住所があるならOKです。
8.贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること又は同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること。
遅くとも、贈与を受けた年の翌年12月31日までに住み始める必要があります。
9.取得する建物の登記簿面積が50㎡以上240㎡以下であること
狭すぎても広すぎてもダメ、いわゆるフツーの家なら大体OKです。1LDKとかだと小さすぎる場合も。
10.中古住宅の場合は、築年数が木造の場合には20年以内、マンション等耐火建築物の場合には25年以内であること
築40年とかのシブイ家はダメなのです。ただし、新耐震基準に適合していることが証明された家であればOKです。
11.贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告を行っていること
贈与税が発生しなくても、「贈与税の確定申告」は申告期限内に行う必要があります。
この要件を全て満たしている場合には、「いつ贈与を行ったか」「その住宅に10%の消費税率が適用されるか否か」に応じて、下記金額までの贈与は、贈与税が非課税となります。
このように期間が後になるほど非課税枠が少なくなるのは、「今だけ」感を出すために他なりません。
購買意欲を促進し、経済の活性化の意味も含んでいると言えます。また、消費税率10%が適用された場合には非課税枠が増額されるのも、同様の理由でしょう。贈与税には多少は目をつぶるから、消費税増税後もみんな住宅を買おうね、という国からのメッセージですね。
なお、住宅取得等資金の非課税制度は、通常の年110万の非課税枠と併用が可能です。1,000万円+110万円=1,110万円などの非課税枠を適用することができる、ということですね。
ポイント⑤ 利用には特に注意を!相続時精算課税制度の特例
「年110万円ずつの暦年贈与?しゃらくさい!」「住宅取得等資金の非課税制度?要件が満たせん!」そんな親子の最後の手段として、「相続時精算課税制度の特例」を利用して、住宅取得等資金の贈与を行う方法があります。
相続時精算課税制度とは、親からの贈与につき、一定の要件を満たした場合には、2,500万円までは贈与税が課税されない制度です。ただし、この制度を適用し非課税とされた贈与財産については、親が亡くなり、相続発生時に、相続財産として扱われます。
具体的には、現在5,000万円の資産を持つ親が、この制度を利用し2,500万円、子に贈与したとします。
すると親の財産は5,000万円―2,500万円=2,500万円になりますね。途中に増えた、減ったがありつつも、最終的にこの2,500万円の財産を持った状態で親が死亡、相続が発生したとしましょう。
そのときの相続財産は、実際に親が死亡時に持っていた2,500万円+相続時精算課税制度により贈与した2,500万円=5,000万円として取り扱われるのです。つまり、「贈与税は掛けないけれど、相続税はかけますよ」という制度ですね。
そのため、単純な非課税ではない、ということを理解しておく必要があります。
これをどう捉えるかは、人により様々です。
「どちらにせよ相続税はかかるんだし、早めに子に財産を渡して、幸せな様子が見られるのは良いこと」と考えるか、「最終的に相続税がかかるなら、意味ないんじゃないの・・・?」と考えるか、これはどちらも正解だと思います。
ただし、判断をする上で知っておいて頂きたいポイントが、その他にも幾つかあります。
まず、「相続時精算課税を一度適用すると、その贈与を受けた親からの贈与については一生、暦年贈与の年110万の非課税枠は適用することができない」ということです。
選択は慎重に判断する必要があります。
さらには、「相続時精算課税制度は、住宅取得等資金の非課税制度と併用可能」です。
そのため、まずは住宅取得等資金の非課税制度の適用ができないかを検討しましょう。
なぜなら、この制度は相続時精算課税制度とは違い、純粋な非課税の制度であるためです。
同制度が適用できない場合や、同制度の非課税枠では住宅取得等資金に足りない場合に、初めて相続時精算課税制度の適用を検討する、というのが無難で、賢いやり方です。
いかがでしたでしょうか?「親から子への住宅取得資金の援助」の方法としては、今回紹介したものが主な方法ではありますが、あくまで援助、つまりは「贈与」という形をとった場合の話です。
その他の手段としては、親から子に「お金を貸す」という方法もあります。
ただしその場合には、親子間であっても、キッチリと契約書を作成し、決められた期日に従い、なあなあにせず、粛々と返済を行っていく必要があります。
贈与にしても、貸借にしても、税務の世界は一般の感覚で行うと、認められない、ということが多々あります。
必ず税理士等の専門家にご相談の上、適切な方法で子供に援助できるようにしておきましょう。
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