不動産を相続した時にするべき4つの手続き
相続が発生すると、故人が生前に所有していた財産が相続財産として相続人等の権利者に承継されることになります。
我が国の相続事情は相続財産に占める不動産の割合が高いという特徴があります。
特に地方では持ち家率も高く、老齢の親が亡くなった場合にその住処が相続承継の対象になります。
また不動産は相続税の対策としても有効で、現預金よりも相続税評価額が低くなるため、税負担を減らすために現預金を積極的に不動産に変える(購入する)ことが多いことも理由の一つです。
そのため日本国内の相続事案ではほとんどの場合不動産の承継が行われることになります。
今回は不動産を相続した場合の手続きや注意事項について解説していきます。
■手続き1:遺言書の検認手続きまたは検索・照会請求
近年、「終活」や「墓じまい」などがブームになっていますが、高齢化が進む現代では自身の命の終焉に向けて必要な準備をするという意識が高まっているのが分かりますね。
元々このようなブームに関わらず、わが国には「遺言」という法的なルールがあり、自分の生前の財産の分配などについて後の世代に引き継ぐ手段として活用されてきました。
遺言の内容を書面に記したものが「遺言書」となるわけですが、相続争いを防ぐためにも有効であることが広く浸透していますので多くの事例で遺言書が作成されます。
この遺言書は扱いに注意しなければならないことをご存知でしょうか?
あなたが故人の家族で相続人となる場合、タンスの引き出しから遺言書が出てくるかもしれませんね。
よくテレビドラマなどでは親族が一堂に会して故人の遺言書を開封する場面がありますが、これをしてしまうと法律違反になってしまいます。
「過料」といって一種の罰金を取られてしまうこともあるので注意が必要です。
タンスなどにしまわれた遺言書は「自筆証書遺言」といって、故人が自筆で作成して保管していたものです。
自筆証書遺言は偽造や変造の可能性があるため、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になります。
検認は裁判所が関与することで全ての相続権利者に対してその通知を行い、相続が起きたことを知らせる意味もあります。
そのため相続人を確定させなければならないので、故人(被相続人)の方の出生時から死亡時までの戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本が必要になります。
詳しくはこちらで確認できます。
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_17/
ただし遺言書は公証人が関与して作成される「公正証書遺言」で作られることもあります。
この場合は検認作業は必要ありません。
公証人とは裁判官や検察官、弁護士など法律に関わる仕事を長年してきた一定の者が法務大臣によって任命される公務員です。
法律の専門家が関与して作成され、公証役場に原本が保管されているので偽造や変造の心配がないので検認をしなくてもよいことになっています。
故人が生前に公正証書遺言を作成したことを話している場合は最寄りの公証役場に問い合わせてみましょう。(遺言書の検索・照会請求といいます)
また正本(写しのようなもの)の交付がされているはずですから、これを発見した場合も当該公証役場に問い合わせが必要です。
■手続き2:相続を原因とする所有権移転登記
我が国では不動産の権利について明確にするために「登記」というシステムが取られています。
土地や家屋などの不動産に所有権や抵当権などの権利がある者は、これを登記システムに反映させることでその権利を明確にし、他者による権利侵害を防ぐことができます。
登記システムは法務局が管理しており、登記手続きも法務局で行います。
相続によって不動産を取得した場合は相続を原因とする所有権移転登記を行うことによって自分の権利を第三者に有効に主張することができるようになります。
この登記は法律上は必ずしなければならないものではなく、その期限も特に定められていないため先延ばしにしたり失念するケースも散見されますが、他者による権利侵害やいざその不動産を売却しようとするときに上手くいかなくなったりと、色々と不具合が出る危険性が非常に高いので登記手続きは必ず行うようにしてください。
所有権移転登記はよく「名義変更手続き」などとして紹介されることがありますがこれは正確ではありません。
名義変更というのは実際は本来の所有者の住所の変更登記のことなので別の手続きになるのですが、イメージ先行で所有権移転登記のこととして呼称されることもあります。
また所有権移転登記には売買を原因としたものと相続を原因としたものがあり、それぞれ手数料の税率が異なります。
相続を原因とするものはその不動産の固定資産税評価額の0.4%の税率がかかり、手数料として登録免許税という税金の形で納付することになります。
登記作業に必要になる書類等はケースによって異なります。
有効な遺言書がありそれに従って不動産の権利を承継する場合は比較的手間がかかりませんが、そうでない場合には法務局にその不動産の権利を誰が正当に取得したのかを説明、証明するために色々な資料が必要になることがあります。
まず複数相続人同士で自由に不動産の権利を定めた場合は、その約束事を確認できる遺産分割協議書が必要です。
またその協議に参加した者が正当な権利を有する者であることを証明するために、相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明が必要になります。
他に必要な物としては被相続人の戸籍謄本や登録免許税の額を算出する指標とするためにその不動産の固定資産税評価証明書も必要になります。
素人ではなかなか手間がかかり面倒なので司法書士などに依頼するケースも多く、その場合は数万円程度の報酬が必要になるでしょう。
■手続き3:相続税の申告と納税
相続財産に不動産を含むか含まないかに関わらず、我が国の税制では相続財産は課税の対象になります。
日本の税金はお金や財産価値のあるものが人や法人の間で移動した時に課税するのが基本ですが、相続では故人から相続人などに財産が移転するので、ここに目を付けられた形です。
相続財産に対してかけられる税目を相続税といい、この手続きのことを考えなければなりません。
相続人など遺産を貰う立場の方が覚えておかなければならないのは、例えば5000万円の不動産を相続で承継したからと言って、単純にこれに相当する相続税を納めるわけではないということです。
相続税は不動産以外の現預金や有価証券など全ての財産を合算して考えなければならないのです。
そしてもう一つ大事な「基礎控除」の存在は絶対に知っておきましょう。
これは相続という人の死に対してかけられる税金に対する国民感情への配慮のため、一定の額の遺産までは相続税の課税を免除するために作られたものです。
近年この基礎控除の枠が減ってしまい、税負担が増える方が増加してしまいましたが、それでもかなり大きな控除枠の為多くの事例で相続税の負担を無くしたり、税金額を減らしたりする効果があります。
計算式としては、「基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数」となります。
この額の遺産までであれば相続税がかからないので納税だけでなく申告も不要になります。
基礎控除は非常に有効で大切なので掘り下げて解説します。
遺産の価値は誰が判定するのかというと、基本的には税務署ではなく相続人等の権利者が自分で考えます。
問題になるのは素人が相続財産の評価をしなければならないということです。
相続税の額を算出するための「相続税評価額」というものを算定しなければならないのです。
現預金はそのままの価値ですが、不動産の価値はどのようにして判定するのでしょうか。
実はこれが素人には非常に厄介で、その不動産が土地か建物かによっても評価方法がわかれます。
土地の場合は市街地等にある物件の場合基本的には「路線価」という指標を用います。
土地は国によって一定の基礎評価を受けており、これを路線価という形で公表しています。
しかしこれは国が定める基本の指標であり、実際にはそこに様々な補正を加えて実際の不動産の価値を判定しなければなりません。
例えば当該物件が自宅の土地など自分で使用する自用地なのか、アパートなど他人に貸すための土地なのかによる利用形態による補正、その土地が所在するエリアが住宅地区なのか、商業地区や工場地区なのかなど区分による補正、道路に面するところからどのくらいの奥行きがあるのかによる奥行補正、角地や準角地などによる影響補正など様々な補正を施さなければならず、正直なところ素人ではかなり難しい作業になります。
路線価が無い郊外などの土地は「倍率方式」、宅地以外は宅地比準方式が適用になったりと複雑です。
家屋の評価は土地よりは複雑ではないものの、貸家などの場合は借家権割合の調整などが必要になります。
また政府が用意した特例や特別控除など、不動産の価値を計算上下げて、もって相続財産の額を減らし、相続税の負担を減らす措置が用意されています。
これは知っていなければ利用できませんが、上述したように非常に手間がかかるうえに複雑なため、相続税の申告や納税は税理士などの専門家に依頼すると安心で安全です。
税理士はその筋の専門家ですから、特例なども上手く活用して税負担を極力減らすようにしてくれるでしょう。
自分で行う場合はさらに基礎控除の枠に収まるように、非課税財産や債務控除などの概念をフルに活用して相続財産額を計算上減らす工夫が必要です。
非課税財産とは厳密に言えば故人の財産と言えるものでも、国民感情への配慮や政策上の取決めによって遺産の総額に算入しなくても良いものをいいます。
例えば墓地や仏具、あるいは香典など一定の葬儀関係の財産や、生命保険金の一部、退職手当金の一部、一定の寄付や公益事業用財産などがあります。
生命保険金と退職手当金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税財産とすることができます。
債務控除とは故人が持っていた一定の債務を相続財産から控除し、遺産額を減らすことができるものです。
例えば借入金や未払いの医療費、未払いの住民税や固定資産税など一定の税金、通夜の費用や葬儀費用、葬儀前後で通常必要とされる出費などです。
控除できないものもあり、墓地購入にかかる未払い金、弁護士費用や税理士費用、土地の測量費用や登記費用、香典の返戻費用、故人の死後の墓地購入費用などは控除できません。
さらに、逆に相続財産に算入しなければならない「みなし相続財産」というものもあります。
本来は故人の財産とは言えないものでも、実質的に故人の権利に帰属するとみなされるものです。
一定の生命保険金や生命保険契約に関する権利などがあります。
注意が必要なのが相続開始前3年間になされた相続人への財産の贈与を相続財産に組み戻す「3年以内の贈与財産の加算」です。相続税逃れのために生前に財産移転する行為に対する牽制の効果があるものです。
同加算とみなし相続財産は遺産の総額を増やす方向に働くものですが、税理士などの専門家を利用しない場合はこれらも相続人が自己の責任で計算しなければなりません。
こうした計算の結果、基礎控除内に収まれば相続税の申告納税は不要になります。
基礎控除を超えた場合はさらに相続人個人個人の事情を反映した複雑な計算をして最終的な相続税額を算出し、税務署に対して申告、納税を行います。
■手続き4:固定資産税の納付
不動産は実は所有しているだけで税金がかかるという厄介な側面も持っています。
今まで不動産を所有したことがないという方でも「固定資産税」という名前は聞いたことがある人が多いと思います。
固定資産とはつまり不動産のことを指しており、これが所有しているだけで課税される税目になります。
固定資産税は国税である相続税と違って市町村税となり、管轄もその不動産の所在を管轄する地元の市区町村です。
相続税と違って固定資産税は地元の役所が勝手に不動産の財産評価をし、必要税額を算出して納付書を送ってきますので、これに従って納付することになります。
固定資産税の算出の為に用いる指標は相続税とは異なり、独自の指標を用いて地元の役所が「固定資産税評価額」というものが設定されます。
相続税算出の為に用いられる「相続税評価額」よりも若干低めの価値評価になるのが普通です。
納税義務者はその年の1月1日時点で所有権を有する者になるので、相続で不動産を取得した場合は翌年から納税義務者となります。
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