子なし家庭が注意すべき相続の注意点6点
近年、若い世代でもじわじわと子供がいない世帯が増えていますね。
自身の相続を考える世代の方々の中にも様々な理由で子供のいないご家庭もあります。
遺言講座や高齢者向けのファイナンシャルプランニングサービスでは夫婦二人と子どもが1人~2人程度のケースを想定して解説されることがほとんどですが、相続というものに視点を絞った場合、子どもがいる場合といない場合とでは対策の立て方が異なります。
今回は一つの悲しい実例を挙げながら、これを軸に子供のいないご家庭で相続対策を考える際の注意点を見ていきましょう。
■配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人になるケースは警戒度MAX!
我が国の法制度は相続に関しては民法上で基本的な決め事が設定されています。
どんなケースで誰にどれだけの財産が相続として承継されるのかといった基本事項が決められているわけです。
夫婦に子供がいない場合誰が相続人になるのかもこの中で決められていて、場合によっては何も対策をしないと長年連れ添った配偶者が住居を追われる可能性も出てきます。
ここで実際に起きた最悪の事例を一つご紹介しましょう。
旦那さんは奥さんと一緒に暮しておりましたが子どもがいませんでした。
彼も75歳と高齢で、親はすでに亡くなっています。
旦那さんは自分には子どもがいないので自分の死後は当然に奥さんが全て相続するものだと思い、特に対策などは行っていませんでした。
そして旦那さんの死後にはわずかな現預金と住居の一軒家だけが残されました。
奥さんはその家で慎ましく暮らしていくつもりだったのですが、ここに旦那さんのお姉さん(Aさんとします)が登場します。
奥さんとAさんは普段は付き合いはありません。
一般的に自分の配偶者とは当然仲が良くても、その兄弟姉妹と仲良くするというケースは稀と言って良いでしょうね。
奥さんもそうだったわけですが、ここでAさんが自分の遺産の取り分を主張してきました。
奥さんはビックリしましたが、喧嘩もしたくないので弁護士に相談して相応の取り分を分けて上げようと思いました。
しかし現預金がわずかなため家を売るしかありません。
家も古いため高額では売れず投げ売りになりました。
奥さんは次の住居を探しましたが高齢者には孤独死や自殺、未納のリスクがつきまとうためなかなか貸し手が見つかりません。
理由がどうであれ、人が死亡するとそのアパートなりマンションなりの価値が激減してしまうからです。
奥さんは何とか行政の助力も得てアパートを見つけることが出来ましたがほとほと疲れ果ててしまい、心労で体を壊してしまったそうです。
相続事案を扱う弁護士や税理士の間ではあたりまえのこととして語られる逸話です。
ですから配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人になることが想定される場合、必ず早めに遺言書の準備をしておくようにアドバイスします。
この事例では内容は至極シンプル、「全ての財産を妻の〇〇に相続させる」という趣旨の内容にすれば何も問題は起こらなかったのです。
なぜこのようなことが起こるのか、次の項で見ていきます。
■遺言書の内容は原則として民法の定めよりも優先する!
先ほどの事例は故人(被相続人)の兄弟姉妹も法律上の相続人として相続分の主張ができることを知らず、対策を怠っていたためです。
民法が定める相続人は次の通りです。
配偶者:生存していれば必ず相続人となる
第一順位:子
第二順位:被相続人の直系尊属(親や祖父母など)
第三順位:被相続人の兄弟姉妹
まず配偶者は生きていれば必ず相続人となります。
ですから上の実例でも奥さんは相続人になることができました。
しかし配偶者以外にも、優先優位が高い順に生存していれば相続人になれるのです。
実例では第一順位の子と第二順位の親もいません。
この場合親のさらに上の世代、祖父母が生きていれば相続人となりますが、高齢ですでに死去されていました。
残ったのが第三順位の兄弟姉妹、実例では姉のAさんです。
つまりこのケースでは奥さんと兄弟姉妹のAさんが相続人として正当な権利者となり、相続分を主張できるということになります。
この例では奥さんは全遺産の4分の3、Aさんは4分の1を主張できます。
現預金が多ければ現金で支払うこともできるでしょうが、日本の相続では不動産が多くを占めるのが普通で資金を準備できないことも多いのです。
そのため不動産の現金化が必要になるのですが、往々にして満足のいく売却額とはなりません。
もしこの時、旦那さんが「全ての財産を奥さんに相続させる」旨の遺言書を作っていたらどうでしょう。
実はこの場合、原則として民法の定めよりも遺言書の方が優先されるので、Aさんは取り分の主張をすることができず、奥さんは全ての財産を貰い受けることができます。
ですから住み慣れた自宅を追われることはなかったのです。
これは完全に旦那さんの理解不足、対策不足でした。
ちなみに、遺言書が無い場合の法定の取り分(法定相続分)はケースごとに以下のようになります。
もし自分が遺言書を準備しないで死亡したら、誰にどれだけの遺産が渡ることになるのか想像してみましょう。
・配偶者と子が相続人となるケース
配偶者と子が2分の1ずつ。子が複数の場合は均等に分ける
・配偶者と直系尊属が相続人となるケース
配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1
・配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人となるケース
配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1
これを見ると、法律は血縁関係よりも実生活で伴侶となった配偶者を優遇し、次いで血縁が濃く精神的な繋がりが強い順に優先されているのが分かりますね。
ただしこの規定は遺言書が無い場合を想定して法が準備しているものですから、先ほどお話したように遺言書がある場合は原則として遺言の内容が優先になります。
従って例えば配偶者には何も残さず、姉のAさんに全ての財産を相続させる旨の記載があればそれが優先されることになります。
この遺言の内容を覆したい時は、相続人などの権利者が全員合意の元で話し合って自由な取り分を決めることができます。
冒頭の実例では、奥さんと姉のAさんが双方の合意の元で「奥さんだけが相続する」旨の取決めをすれば奥さんは救われていましたが、情や繋がりが薄い相手にそこまで譲歩することは期待できません。
従ってやはり遺言書の準備は非常に重要ということになるのです。
■遺留分にも注意!
上の項で、例えば姉のAさんに全財産を相続させる遺言にすることも可能とお話しました。
確かにそれは可能です。
しかし法律は遺言書でも覆すことができない、ある規定を設けています。
それは「遺留分」という権利です。
遺留分は一定の相続人に最低限の取り分の主張を認めたものです。
ですから例え遺言書で遺留分を無視した分配(『遺留分を侵害する』といいます)内容にしたとしても、遺留分を持つ権利者が主張すれば、最低限の遺留分の取り分を主張できることになります。
この点、遺留分はあくまで「権利」であって当事者が主張しなければ遺留分の権利は行使できません。
ですから遺言で誰かの遺留分が侵害されていても、その人が納得している場合や、何らかの見返りを受けることで遺留分を主張しなければ遺言書の内容が実現できます。
もしこの権利を主張する場合は「遺留分減殺請求」という形で主張することになります。
遺留分の権利者は配偶者と子及び直系尊属だけです。
そしてその遺留分は次の通りです。
・直系尊属だけが相続人となるケース
法定相続分の3分の1
・上記以外のケース
法定相続分の2分の1
上記の通り、兄弟姉妹には遺留分の権利はありません。
ですから奥さんが住居から追い出された冒頭の実例で、旦那さんが「妻に全財産を承継させる」旨の遺言書を作っていたら、姉のAさんは遺留分の権利主張もできないので、奥さんは遺言書によって完全に守られることになります。
逆にもし、「姉のAに全財産を相続させる」旨の遺言内容だった場合には、奥さんは法定相続分の2分の1の遺留分の権利を主張して、姉のAさんに対して遺留分減殺請求をかけることによって遺留分を取り戻すことができます。
遺留分減殺請求は、その請求の証拠が残るように内容証明郵便などで行うようにします。
なお、この「遺留分」の規定ができた背景には、親族や情が通った配偶者などが相続の場面で理不尽な扱いを受けないようにという配慮があります。
例えば、家族を顧みず遊びにほうけて外で作った愛人などに全財産を譲るなどという事例も無いわけではありません。
実際似たような事例は今でも見聞きしますよね。
これでは家族が余りにもかわいそうだということで、法律によって一定の者に遺留分の権利を保証したのです。
■代襲相続にも気を配ること!
冒頭の実例で、もし姉のAさんも亡くなっていて、他に兄弟姉妹もいなければどうだったでしょうか。
第三順位の兄弟姉妹までいないことになるので、残った奥さんだけが相続人となって安泰でしょうか。
実はまだ安心できません。
民法には「代襲相続」という規定があり、一定の相続権利者が被相続人の死亡前にすでに死亡していた場合、その下の世代が上の世代の相続権を受け継ぐことができることになっています。
冒頭の実例では、姉のAさんが亡くなっていたとしても、Aさんに子があれば(仮にBとします)、BがAさんに代わって相続人(代襲相続人)となります。
ですから遺言書がなければやはり奥さんはBさんに法定相続分の取り分を持っていかれることになります(Bさんが任意で遺産を受け取らないことはできます)
また代襲相続人は被代襲者(死亡していなければ相続人となっていた者)の権利をそのまま引き継ぎます。
そのため遺留分の権利がある者を代襲した場合は代襲者も遺留分の権利を行使できますが、元々遺留分の無い被相続人の兄弟姉妹の代襲者は遺留分の権利はありません。
今回の事例では姉のAさんが亡くなっていてその子Bが代襲したとしても、「全財産を妻に相続させる」旨の遺言があれば遺留分の権利も行使できませんから奥さんは完全に守られ、安住の住処で暮らすことができます。
ちなみに、代襲相続が認められるのは子と兄弟姉妹のみで、直系尊属には認められません。
また子の代襲は下の世代が生きていれば永久に認められますが、兄弟姉妹の代襲は1世代のみ、つまり当該兄弟姉妹の子までしか認められません。
■妻以外の女性の子も相続人になる!
もう一つ盲点になることをお話します。
前述した通り、相続人になり得るのは配偶者の他に子、直系尊属、兄弟姉妹がいます。
そして子と兄弟姉妹には一定の代襲相続が認められることもお話しました。
このなかで「子」とは、何も直前まで婚姻関係にあった配偶者との子に限られません。
つまり前妻の子も第一順位の相続人と成り得るのです。
実際の事案で隠し子が発覚して大問題になるのはこのためです。
結婚を何度か繰り返している方が亡くなった場合、以前の配偶者との間に設けた子は立派な相続人です。
今回の事例では前妻は出てきませんでしたが、もし旦那さんに前妻がいて子(仮にCとします)がいる場合は姉のAさんではなく、優先順位の高い子であるCが奥さんと共に相続人となります。
この場合旦那さんの姉Aさんよりもさらに情関係がないCは容赦なく奥さんに自分の取り分を請求してくることでしょう。
ただしこの場合もやはり遺言書の準備があれば奥さんを守ることができるのは変わりありません。
とにもかくにも、遺言の準備が大切なことがお分かりいただけたでしょうか?
遺言はどんな場合でも準備するに越したことはありませんが、子どもがいないケースでは特にその重要性が増すのです。
■専門家に相談する場合の注意点
登場人物が増えるほどに関係は複雑になり、誰がどんな権利を持つことになるのか分かりにくくなります。
これから自分の人生の終わりの準備をしようと思っている方はぜひ万全の準備と対策を心がけたいものです。
自分だけで処理しようとすると、知識不足や情報不足から思わぬ落とし穴にはまってしまう危険があるので、専門家へ相談することも有効です。
その時には権利関係を一つ一つ丁寧に説明する必要があり、隠し子などがいる場合でも正確に伝えなければ正しいアドバイスを受けることができず、かえってマズイことになってしまう公算が大ですから正直に話すようにしましょう。
親族関係図などを作っていくと呑み込みが早くなるので相談を受ける側としてはかなり助かります。
肝心の専門家選びとしては弁護士、、税理士、司法書士、などが適応になりますが、いずれも相続問題に明るい人材を選ぶようにしましょう。
各専門家とも実際は取扱分野が広く、相続関係には明るくなかったりします。
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